犬の寿命は大きく伸びており、ここ30年で約2倍になったと言われています。それに伴い、高齢の犬が増え、高齢ならではの病気も増えています。その代表が腫瘍(いわゆるがん)であり、いまでは犬の死因の第一位はがんであると報告されています。

犬のがんの中でも、自覚症状を訴えることのできない犬では非常に発見が難しいのが脳腫瘍です。今回はそんな脳腫瘍の症状や治療法、予後などについて解説します。脳腫瘍のリスクがある高齢犬の飼い主さんはもちろんのこと、今後発生してしまう可能性のある若いわんちゃんの飼い主さんも、ぜひ参考にしてみてくださいね。

脳腫瘍とは

脳腫瘍は脳にできる腫瘍であり、犬での発生率は10万頭に14.5頭です。日本には約1,000万頭の犬がいると言われていますので、日本では1,500頭前後の犬が罹患していると推測されます。脳腫瘍は、脳から発生する(脳原発の)腫瘍だけでなく、鼻にできた腫瘍が脳へ浸潤したり、全身にできた悪性腫瘍が脳へ転移を起こして発生することもあります。

脳原発の脳腫瘍の多くは良性だと言われており、進行はゆっくりであることが多いです。ただし、脳に発生するため、たとえ良性の腫瘍でも強い症状を引き起こすことが多く、とても怖い病気と言えるでしょう。

脳腫瘍の症状

人の脳腫瘍の初期症状には、頭痛やめまい、手足のしびれ、物忘れなどがあると言われていますが、これらの症状は本人のみがわかる「自覚症状」です。犬では自覚症状を離すことができないため、脳腫瘍の初期症状がわからないことが多いです。そのため、脳腫瘍が徐々に進行してきたとして、突然けいれんなどの強い症状が出て来ることも少なくありません。

脳腫瘍の症状は、腫瘍の種類ではなく、脳のどの部分にできるか(発生部位)によって大きく異なります。脳腫瘍では、腫瘍が発生した部位以外のダメージにも、その腫瘍が大きくなって圧迫する脳の部位のダメージが強く症状として出て来ることも多いです。

脳腫瘍の発生部位とその症状は以下の通りです。

脳腫瘍の部位と症状の特徴

大脳皮質のダメージ:発作・沈鬱・性格の変化・視覚障害・聴覚障害など
小脳のダメージ:運動障害・眼振・斜頸など
間脳(視床)のダメージ:旋回運動・視覚障害・意識障害など
脳幹(中脳~延髄)のダメージ:発作・嘔吐・意識障害など

このように、脳腫瘍の犬に起こる症状はさまざまです。また、これらの症状は、てんかん、脳炎、脳の外傷、脳梗塞などの脳の異常に共通する症状になりますが、高齢になってから急にこれらの症状が出てきた場合は、脳腫瘍である可能性も疑わなければなりません。特に、性格の変化、沈鬱、旋回運動など痴呆と思われるような症状も、実は脳腫瘍の症状であったということもあるので注意が必要です。

脳腫瘍の診断

脳腫瘍は以下のような診断方法で診断されていくことが多いです。

血液検査

現在のところ、犬の脳腫瘍の信頼できる腫瘍マーカーは存在しないため、血液検査で脳腫瘍を診断することは不可能です。ただし、血液検査は脳腫瘍と同じような症状を起こす「代謝性疾患」を除外するために必要な検査です。

代謝性疾患は、肝臓や腎臓あるいはホルモン分泌などの異常によって、血液成分に変化が起きる結果、その変化が脳神経に影響を与える病気です。血液検査で異常がない場合、代謝性疾患の可能性がほぼ否定できるため、脳腫瘍を含む頭の中の異常である「頭蓋内疾患」である可能性が非常に高くなります。

MRI検査

脳腫瘍の診断のために最も有用な検査がMRI検査です。

頭蓋骨に囲まれた脳は、レントゲンや超音波など、一般的な動物病院で行える検査では調べることができません。そのため、脳の異常を調べるためにはMRI検査が必要になってきますが、犬でMRI検査を行う場合は全身麻酔をしなければなりません。

犬のMRI検査は一般的な病院ではほとんど行うことができず、大学病院などの二次病院で行われることが多いです。MRI検査を希望される場合は、かかりつけの動物病院で検査のできる動物病院を紹介してもらいましょう。

治療

愛犬が脳腫瘍と診断された場合、以下のような治療オプションがあります。

手術(開頭術)

MRI検査によって、腫瘍の大きさや発生部位を調べた結果、手術が可能であると判断された場合には、手術を行うことがあります。比較的進行してから気付かれることの多い犬の脳腫瘍では、まだ手術は一般的ではありませんが、MRI検査などの浸透により徐々に犬の脳腫瘍の手術は増えてきています。

外科手術は、脳腫瘍を完治させることができる唯一の治療法ではありますが、難易度が高いため手術ができる施設が少なく、高額になるというデメリットがあります。

放射線治療

放射線治療は腫瘍に高エネルギーの放射線を当てて、腫瘍を縮めるための治療です。脳腫瘍の多くが適応になるため、外科手術が難しい場合に選択されることの多い治療方法です。

比較的高い確率で効果が期待できる治療法ではありますが、治療できる施設は外科手術同様、大学病院や二次病院などに限られています。また、数日~1週おきくらいで何度か治療する必要があったり、施術のたびに全身麻酔が必要になるため、飼い主さんにも犬にもある程度負担がかかる治療方法ではあります。

抗がん剤

脳腫瘍の多くは抗がん剤があまり効かないと言われていますが、脳腫瘍の中には抗がん剤が有効な腫瘍もあります。抗がん剤は一般の動物病院で行うことができ、外科手術や放射線治療に比べると安価にできるというメリットがある一方、適応が限れており、副作用のリスクもあります。

脳腫瘍に使う抗がん剤には、飲み薬や注射などがあり、通院で行う場合と入院が必要な場合があります。

対症療法

脳腫瘍自体の治療ではありませんが、脳の腫れを抑えて症状を出さないようにするための脳圧降下剤や、けいれんを抑えるための抗けいれん薬などを、対症療法として使うことがあります。

対症療法はあくまで症状を抑える治療ではありますが、犬のQOL(生活の質)を高めてあげるためには大切な治療の一つです。対症療法は他の治療の補助だけではなく、腫瘍自体の治療が難しい場合や、負担の強い治療を希望されない場合にも選択できる治療方法になります。

脳腫瘍の各治療法とそのメリット・デメリット

 

治療法

メリット

デメリット

外科手術

・完治の可能性がある唯一の治療法 ・適応が少ない

・手術可能な施設が限られている

・高額

・全身麻酔や手術のリスク

放射線治療

・適応が広い

・効果が得られる可能性が高い

・治療可能な施設が限られている

・高額

・何度も通院が必要

・治療のたびに全身麻酔が必要

抗がん剤

・実施可能な病院が多い

・比較的安価

・適応が限られている

・副作用のリスク

対症療法

・基本的にすべての症例が適応

・どの動物病院でも実施可能

・安価

・症状をある程度抑えることが可能

・根本的な治療にならないため、徐々に症状が進行

・治療効果がないこともあり

脳腫瘍の予後

脳腫瘍の予後は、脳腫瘍の種類と悪性度、腫瘍の発生部位、それから治療法などによって異なります。

最も長生きできる治療法は、外科手術と放射線を組み合わせた治療だと報告されています。この治療法では、脳腫瘍の症状が起きてから3年以上生存できることもあります。悪性度の高い腫瘍やすでに進行してしまっている腫瘍では予後が悪く、たとえ積極的な治療を行ったとしても数日で命を落としてしまうこともあります。

まとめ

犬の脳腫瘍は発見が非常に難しい病気であり、発見されたときにはすでにかなり進行してしまっていることの多い病気です。一方で、獣医療の発展とともに脳腫瘍の治療成績も上がってきており、もはや脳腫瘍だから何もできないということはありません。

脳腫瘍の予後を上げるためには早期発見が必要ですが、見た目に何も変化のない脳腫瘍の早期発見のためには、飼い主さんの観察力が重要です。けいれんなどの劇的な症状だけでなく、行動の変化や痴呆のような症状が、実は脳腫瘍の症状である可能性もあります。高齢犬で何か気になる症状がある場合は、早めに動物病院で相談するようにしてくださいね。

 

筆者紹介

小さいころから犬・猫を含めてさまざまな動物が好きで、獣医師を目指す。2005年に獣医科大学を卒業し、獣医師免許を取得。2件の動物病院で合計9年勤務。

犬・猫・シマリス・熱帯魚の飼育経験あり。現在夜間救急動物病院で勤務しつつ、今年度中に自身の動物病院を開業予定。

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