犬で緊急手術が必要になる病気はいくつかありますが、その代表が「腸閉塞」です。腸閉塞は診断や治療が遅くなると致命的になってしまうこともあり、飼い主さんが早く気付いて動物病院へ連れていくことが大切です。
そこで、今回は犬の腸閉塞について一緒に勉強してみましょう。腸閉塞という病気がどういう病気で、なぜ起きてしまうのかしっかり理解して、腸閉塞の予防や早期発見につなげてくださいね。
腸閉塞とは
腸閉塞とは名前の通り、腸の一部が閉塞してしまい、食べ物が先に進めなくなってしまって発症する消化器疾患です。腸閉塞は「イレウス」と呼ばれることもあります。
犬の腸閉塞は機械的イレウスが一般的
「機械的イレウス
は、物理的に腸が閉塞してしまう状態であり、一般的に腸閉塞というと、この機械的イレウスを指します。腸が動いているのに、物理的に通路がブロックされてしまうため、食べ物が通過できなくなってしまう状態が機械的イレウスです。
一方で、物理的な通過障害がないのに腸の運動機能が落ちてしまうことで発生するのが「機能的イレウス」です。膵炎や腹膜炎、開腹手術の後などに発生することがありますが、犬ではあまり一般的ではありません。機能的イレウスは広い意味での腸閉塞ではありますが、犬で腸閉塞という場合、機能的イレウスのことを指すことはあまりありません。
完全閉塞?不完全閉塞?
腸閉塞には、「完全閉塞
と「不完全閉塞
の2種類のタイプがあります。
完全閉塞では、腸の通路が完全にふさがってしまい、それより先に全く物が通過できなくなってしまいます。それ以上先に進めなくなった食べ物は、逆流して嘔吐として出て来ることが多いです。そのため完全閉塞では嘔吐や食欲不振が強く出てきます。
一方、不完全閉塞の場合は、食べ物の通過は悪くなりますが、ある程度流動性のあるもの液体や細かい物は流れることができます。不完全閉塞では、嘔吐などの症状がはっきりしないこともあります。
腸閉塞の原因は3つ
腸閉塞(機械的イレウス)の原因は大きく分けると3つになります。
異物による腸閉塞
若い犬で最も多いのが異物による腸閉塞です。おもちゃ・ひも・ビニール・タオル・モモの種・トウモロコシの芯など、消化できないある程度大きなものを飲み込んでしまった場合に、それが詰まると腸閉塞を起こします。異物による腸閉塞の場合、異物を飲み込んで1~2日後に症状が出て来ることが多いですが、1週間以上たってから腸閉塞を起こすこともあります。
腫瘍による腸閉塞
腸に腫瘍ができた場合、腸の内側に向かって大きくなると、その内腔が狭くなって腸閉塞を起こすことがあります。腫瘍による腸閉塞は、若い犬には少なく7歳以上の高齢犬に発生することが多いです。異物による腸閉塞の症状が急激に出るのに対し、腸の腫瘍による腸閉塞では、軽度の食欲不振や時々出る嘔吐など、部分閉塞の症状から始まることも多いです。
腸重積による腸閉塞
腸重積は、腸の一部が隣接する腸にはまり込んでしまうことで起こる病気です。犬ではあまり一般的ではありませんが、重度の腸炎などによって腸の動きが異常に活発になった時に発生することがあります。腸重積による腸閉塞も、異物による腸閉塞同様、比較的急に症状を引き起こすことが多いです。
腸閉塞の病態~腸閉塞を起こしたときの腸の変化
腸閉塞の問題は、単に腸の中で食べ物が流れないため、フードが食べられないというだけではありません。腸閉塞によって腸自体がダメージを受けてしまうことが致命的になってきます。
腸閉塞の初期には腸の変化は起きない
まず、腸閉塞の初期段階では腸には大きな変化は起こりません。単に腸の内容物が先に進めなく溜まってしまうため、流れなかった内容物が嘔吐として出て来ます。この時点では比較的元気で食欲もあるという子も少なくありません。
半日~数日で腸の壊死が起こる
閉塞の状態にもよりますが、完全閉塞を起こして12時間~数日すると、徐々に腸の血行が悪くなり、腸の壊死が起こってきます。これが命に関わる状況であり、発熱や元気の明らかな低下がある場合は、腸の壊死が起きている可能性があります。
壊死が進行すると腸に穴が開き腹膜炎が起こる
壊死した腸は変色し、穴が空いたり出血したりしてきます。空いた穴から腸の内容物が腹腔内に漏れると、腹膜炎を起こして一気に状態が悪化してしまいます。腹膜炎を起こすと手術をしても助からないこともあるため、腹膜炎を起こす前に治療を開始することが大切です。
腸閉塞の症状
では、どのような症状がある場合に、腸閉塞を疑うのか見ていきましょう。
最も一般的な症状は嘔吐
腸閉塞で最も多い症状は嘔吐です。フードを吐くこともあれば、吐くものがなく胃液や血液を吐くこともあります。嘔吐の頻度は腸閉塞の原因や完全閉塞あるいは不完全閉塞なのかによって違いますが、個体差も比較的大きいです。そのため、嘔吐がほとんどないから腸閉塞ではないとは言い切れません。
嘔吐以外の症状として多いのは、食欲不振~廃絶、元気の低下、腹痛、下痢、血便などです。嘔吐以外の症状に関しては、状態や個体差によってかなりばらつきがありますが、腸閉塞だからこの症状という特異的な症状はあまり多くはありません。
原因別の症状の特徴
以下に、異物および腸重積による腸閉塞と、腫瘍による腸閉塞の症状の違いをまとめました。すべての子に当てはまるというわけではありませんが、腸閉塞の原因によって、以下のような特徴があることが多いです。
異物・腸重積による腸閉塞 | 腫瘍による腸閉塞 | |
年齢 | 全年齢(2~3歳までに多い) | 高齢(7歳以上) |
症状の経過 | 短い(数日間) | 長い(数日~数週間) |
体重減少 | 通常なし | 通常あり |
嘔吐の激しさ | 通常激しい | 弱い~激しい |
下痢・血便 | なし~あり | 通常あり |
祈りのポーズに注意
一つ注意して見て欲しい症状が「祈りのポーズ」です。祈りのポーズは比較的強い腹痛があるときによくみられる症状であり、腸閉塞を含めて強い腹痛を起こす病気に特徴的な姿勢です。
祈りのポーズは、前足を伸ばして、お尻を突き出す「伸び」のポーズのような姿勢ですが、通常の伸びと違い、ずっと同じ態勢でとどまります。このポーズがある場合は、腸閉塞の有無にかかわらず、比較的緊急性が高いと思ってもらった方がいいでしょう。
発熱・ぐったりする場合は状態悪化の可能性
腸閉塞から腹膜炎を引き起こすと、発熱したり、ぐったりしてしまうこともあります。これらの症状は、かなり状態が悪くなってきている可能性が高いことを示唆しますので、できるだけ早く病院へ連れて行った方がいいというサインと思ってもらった方がいいでしょう。
腸閉塞の診断と治療
腸閉塞を疑って動物病院へ連れて行った場合には、以下のような検査や治療を行います。
腸閉塞の診断
腸閉塞の診断は、レントゲン検査、腹部超音波検査で行っていくことが多いです。必要があれば、消化管造影検査で閉塞の確認をすることもあります。これらの検査で腸閉塞を疑った場合には、開腹手術へ進みます。
開腹手術
腸閉塞の治療は、基本的には開腹手術しかありません。全身麻酔をかけ、開腹して腸の状態を実際に観察したうえで、どうするのかを決めていきます。
消化管内異物の手術
閉塞の原因が異物であれば、その異物を取り出します。腸の状態が悪くない場合は、腸の切開をし、異物を取り出して、切開部位を縫合します。もし、すでに腸の壊死が起きてしまっている場合には、壊死している腸を切除し、正常な腸をつなぎ合わせる「腸管吻合術」が必要になります。
消化管腫瘍の手術
腫瘍による腸閉塞の場合は、基本的には腫瘍ごと腸の一部の切除を行うため、腸の切除および腸管吻合術が必要になります。腫瘍が進行してしまっていると、腸の大部分が腫瘍に侵されていたり、他の臓器に癒着や転移を起こしていることもあり、手術で切除することが難しくなってしまうこともあります。
腸重積の手術
腸重積の場合は、開腹して重積部位を確認し、中に入り込んでしまっている腸を引っ張り出すだけで済むこともあります。腸の状態が悪ければ、腸の切除および腸管吻合術が必要になります。
術後の経過
手術後はしばらく腹膜炎などのリスクがあるため、数日の入院が必要になります。その間、点滴や抗生剤などの注射、流動食などを食べさせ、順調に回復していれば3~5日くらいで退院となることが多いです。
異物による腸閉塞や腸重積の場合は、手術が成功し腹膜炎などがなければ完治となります。一方で、腫瘍の場合は切除しても転移や播種の可能性があるため、腫瘍の種類や状態によっては術後に抗がん剤などを使って行くこともあります。
飼い主さんができる異物の誤食対策
犬の最も一般的な腸閉塞の原因は、異物の誤食です。そのため、腸閉塞の予防のためには異物の誤食をさせないことが重要になります。
異物の誤食歴のある犬は要注意
食べ物以外の異物を飲み込んでしまう子は、何度でもやってしまいます。そのため腸閉塞歴の有無にかかわらず、異物を誤食してしまったことのある犬を飼っている場合、異物を飲み込ませないような対策が必ず必要になります。飲み込んでしまう可能性のあるものは、犬の届く場所に置かないようにしておくことが、まず最初の対策になります。
何かをくわえていても無理に取ろうとしない
また、何か食べてはいけないものをくわえているのを見たときには、無理に取らないようにすることも大切です。無理に取ろうした結果、犬が取られまいと慌てて飲み込んでしまったというケースをよく耳にします。食べてはいけないものをくわえているのを見つけたら、好きなおやつでつって、その異物と交換するように取り上げるようにしましょう。
飲み込んでしまったらすぐに動物病院へ連絡
また、何か飲み込んでしまった場合は、すぐにでも動物病院へ連絡しましょう。異物の種類によっては催吐や内視鏡による摘出などによって、異物を回収することができることがあります。それができれば負担の大きい開腹手術を避けることができます。
まとめ
腸閉塞はとっても身近な命に関わる病気です。腸閉塞の治療が1日でも遅くなると、腸の状態が悪化して致命的になってしまったり、手術の難易度が高くなってしまうこともあります。
異物を食べてしまった場合はもちろんのこと、嘔吐や腹痛など腸閉塞を疑わせる症状がある場合には早めに動物病院で診てもらいましょう。腸閉塞の予防や早期発見をできるよう、今回の記事を参考にしてみてくださいね。
筆者紹介
小さいころから犬・猫を含めてさまざまな動物が好きで、獣医師を目指す。2005年に獣医科大学を卒業し、獣医師免許を取得。2件の動物病院で合計9年勤務。
犬・猫・シマリス・熱帯魚の飼育経験あり。現在夜間救急動物病院で勤務しつつ、今年度中に自身の動物病院を開業予定。