ペットを飼うと決めた瞬間から、避けては通れないのが「別れ」です。

「ペットロス症候群」が問題となる昨今、我々はどのように愛するペットとの別れを乗り越えればよいのでしょうか?

今回は赤坂診療クリニック院長の米澤利幸先生に記事を書いていただきました。

関連:ペットのお葬式~愛するペットが亡くなってしまったら~

初めに

死について、それが他者の死であれ自分の死であれ、10年以上も先に生じるであろうと無意識に認識しているときには、ほとんど永遠の未来にあることとして、死は意識に現れることはありません。しかし、それが、1年後、数ヶ月後という近い未来に生じる可能性が生まれたとき、死は、切迫した脅威へと変貌していくのです。そしてさらに、死は、看取る側の人にとって、死にゆく者たちが死した後も、引き続きその脅威を直面させ続けることでしょう。ペットの死もまた、そういうものです。

獣医さんから治療不能の宣告を受けたとき、ペットの死は、切迫した心配という形で、その姿を現してくることになります。実はペットの死は、ペットの死を看取る人に対して、その臨終の宣告が終わったのちに、そこから始まる苦悩を強いるのです。広い意味での「喪の作業」と言われるものです。この喪の作業の最中に生じる状態が、ペットロス症候群であり、このペットロス症候群が長引くか、あるいは悲しみが引き起こす色々な症状が大きすぎる時には、ペットロス症候群は、心の病気の領域へと沈み込んでいくことになります。

ここでは、ペットロス症候群の概要と生じてくる症状、ペットロス症候群で変化する心の状態、発展する可能性のある心の病気、そして、ペットロス症候群への対処法などについて解説します。

ペットロス症候群とは?

ペットロス症候群のロスとは、単に「失う」という意味だけではありません。伴侶であったペットを失うこと、言い換えるなら「愛の対象」を失うこと、すなわち対象喪失(オブジェクトロス object loss)という心理的な意味合いも含んでいる言葉なのです。愛の対象が人間である場合、対象に対して多少なりとも両価的感情、つまり、愛してもいるけど不満(怒り)な面もあるという、相反する感情を持っているものです。誰にとっても、他者が100%理想的に「良い」という存在にはなり得ません。愛してはいるけれど、大いに気に入らないところがあるというのが他者としての人間です。

しかし、ペットは違います。ペットは、あなたに無償の愛を常に変わらず届け続けてくれるのです。ペットは裏切りません。例えば、愛犬の場合です。犬種や個性による差は多少あるにしろ、常に同じ愛を示してくれるでしょう。あなたが忙しくて散歩に連れて行けなかったとしても、罵ることも噛みつくこともありません。あなたの顔を見るたびに、ただ尻尾を振って散歩を懇願するだけです。あなたが数日も愛犬を無視したところで、彼らは変わらずあなたに尻尾を振って近づいてくるでしょう。落ち込んだ時には、労わるような眼差しで、そっと寄り添ってくれるかも知れません。あなたが不機嫌である時でさえ、遠目で寂しそうに伏せているだけで、あなたに敵意を抱くこともないでしょう。愛犬はなんの条件もつけずに、あなたを彼らなりの愛で包んでくれるのです。

彼らの存在は、与えることしかないのです。彼らは、私たちからなにを奪うこともありません。与えることしかない愛の対象を失うことは、大いなる喪失感を感じることになるでしょう。この喪失感によって引き起こされる心身の症状の集まりが、ペットロス症候群と言われるものなのです。ただ、ペットロス症候群という用語は、学術用語ではなく、ペットロス症候群という病名も存在しないため、ペットロスの悪化したものがペットロス症候群であるというような区別は、適切とは言えないかもしれません。そのためここでは、ペットロスとペットロス症候群を同じものとして書き進めています。

ペットロス症候群で生じてくる症状

ペットの死に面して、まず衝撃とも言える状態となります。この時期には、無感覚な感じや当惑したような感じになるでしょう。母親が幼い我が子の死に面した時のような、何が生じたか理解できないような状態になることは、ペットロス症候群では稀です。

しかし、ペットが唯一の伴侶であったような状況にあった人には、幼い我が子を無くした時のような心理反応が生じるかも知れません。

さらに続いて、ため息をついたり泣くという症状はよく見られるようになります。このほか、食欲がなくなる・体重が減る・集中できない・息苦しくて話すことが難しくなるなどの状態となることもあるでしょう。今は亡きペットの夢を見たり、目覚めてのち、それが夢であって現実にはペットはもういないと気づくことで、失望感を感じたりすることも生じることがあります。ひどい場合には、寝付けないとか途中で目覚めるなどの状態となることもあります。散歩に連れて行こうと思ったけれど、ちょっと面倒で連れて行かなかったことや、いけないところに粗相をして叩いてしまったことを思い出して、自責の念にかられることもあるでしょう。特に、自分の不注意でペットが交通事故死したような場合には、自責の念は強い罪悪感となってしまうこともあります。

ペットロス症候群から生じる心の病気

大切な人の死から生じる悲嘆反応と同様、ペットの死によるペットロス症候群も病気ではありません。ペットロス症候群は、悲嘆する対象が人間ではなくペットであるという状況での悲嘆反応なのです。しかし、ペットロス症候群も場合によって、精神疾患へと発展することがあります。もっとも可能性があると同時に、区別(鑑別)が難しいのが「うつ病」でしょう。症状がほとんど同じであり、ペットロス症候群により大きな障害が生活面でも生じている時は、鑑別は難しいものです。

うつ病とペットロス症候群を区別するポイントについての明確な報告は少ないのですが、病的あるいは複雑化した悲嘆反応(病的という表現は侮蔑的意味合いがあるとして使われなくなっています)とうつ病とを見分けるポイントについては、一定の見解があるようです。カプラン臨床精神医学テキストによれば、大うつ病(いわゆる「うつ病」)と異なり、死別に伴う抑うつ症候群(うつ状態)の場合、病的な罪悪感(死別した者に対してだけではない罪悪感)や異常な無価値感(理由のない無価値観にとらわれること)・自殺念慮(一緒にもしくは代わりに死ねばよかったと思う以外の死にたい気持ち)・精神運動遅滞(何もする気になれず実際に何もできない状態)を程することが稀であり、不快気分(うつ)が死んだ者への思いや思い出と関係なく生じることがなく、生活遂行能力が障害されることが一過性で軽度であり、死別から2ヶ月以内に改善することが特徴であるとしています。もし、これらの状態を外れる症状が出ている時には、すぐに医療機関を受診する方がいいでしょう。特に、自分は生きる価値のない人間であり、もう死のうという考えに頭が占領されている時は、緊急の受診が必要です。

ところで、精神科領域の診断は、専門家の間でも議論のあるところであり、一般には理解が難しい領域でしょう。特に問題となるのは、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)・適応障害との異同です。うつ病との違いについてはすでに述べましたが、近年改定された米国精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」の最新版(DSM5)では、悲嘆反応も高度であれば、うつ病と診断してよいことになりました。しかし、それ以前は、死別によるうつ状態には特別の位置付けが与えられており、うつ病の診断基準を満たすほどに重いうつ状態が生じていても、発症後2ヶ月を経過するまでは、うつ病と診断することは許されていませんでした。DSM5の基準については賛同しない専門家も多く、議論のあるところです。あまりに複雑で、また、紙面を大幅に取ることにもなるため、DSM5でのうつ病との違いについては言及していません。また、同様の理由で、ペットロス症候群と適応障害およびPTSDとの鑑別についても触れないことにします。しかし、上記のうつ病との違いを理解して、専門家に相談すべきポイントを押さえておけば、実用的に問題は生じないでしょう。

ペットロス症候群が病的な状態に発展する危険因子

大切な人との死別による悲嘆反応と同様の要因が、ペットロス症候群の重症化に影響を与えることになるはずです。ペットロス症候群が重症化して病的な状態に至ってしまう危険因子について、3つの要因があると考えられます。それは、死したペットとの関係と死の状況、そして飼い主側の個体的要因の3つです。

まず、ペットとの関係の濃密さが濃ければ濃いほど、ペットとの死別が飼い主に与える影響が大きいことは明らかでしょう。この関係の濃密さは、得てして現実生活での満たされなさや幼少期の不安定な親子(愛着)関係が影響するとされています。現実生活の中で誰にも相手にされず大切にされることのない人が、ペットの無償の愛から心理的癒しを受けている場合に、ペットロス症候群から回復するのが遅れたり重症化するリスクが高まります。

続いてペットが死に至る状況の影響について述べます。最たる状況は、症状のところでも書いたように、自分の不注意で伴侶であるペットを死なせてしまった場合でしょう。ペットが例えば犬であったとすると、いつもリードに繋がれて可哀想だと思ってリードを外して散歩させたとき、突然現れた車に愛犬が轢かれて亡くなってしまった状況などです。この時の罪悪感が大きければ、ペットロス症候群が悪化したり治るのが遅れたりするでしょう。ペットの死の瞬間を看取ることができなかった時や、病気でかかっていた獣医さんの治療方法に疑念を持っていたけれど、動物病院を替えることができないうちにペットが死んでしまった場合も同様です。

最後に、飼い主側の個別的要因については、どのようなものでしょうか。幼少期に母親から安心できる愛され方をしてこなかった人にとっても、ペットの存在は心理的に大きな位置付けを与えられることになります。なぜなら、幼少期に受けるであろう母の愛は、ペットが与えてくれる愛と同じく、無償の愛であるからです。そんな人は、幼少期に得られなかった母からの無償の愛を、ペットの愛で代償しているのです。得られなかった母からの無償の愛を、代替え物で満たそうとしても、それは永遠に、その代替え物で満たし続けなければならないのです。幼少期という時期に、「母から」得られた無償の愛は、心の中に組み込まれて、安心感や自信の核のようなものを形作り出します。つまり、母の存在が身近にはなくなってしまっても、その愛のチカラは永続することになるのです。母からの無償の愛は、心の中に組み込まれるのです。残念ながらペットの存在は、母親ほどには影響を与えることはありません。ですから、幼少期に母親から安心できる愛され方をしてこなかった人のペットロス症候群は、治りにくいのです。また、飼い主に、うつ病などの気分障害や不安障害の既往のある人や、積み重なるトラウマを体験している人も、ペットロス症候群の重症化は生じやすいとされています。

ペットロス症候群で変化する心理的段階とサポートのポイント

ペットロス症候群からの回復プロセスは、近親者の死からの回復過程と基本的には同じプロセスを辿ると思われます。愛する対象の死から心理的回復プロセスは、喪の作業(mourning work)あるいは悲嘆の作業(グリーフワーク grief work)と言われています。自分の死に対する心理的受け入れプロセスは、キュブラー・ロスによる観察が一般にも知られているところです。一方、死別による悲嘆の回復過程は、ジョン・ボウルビーが示した4段階がありますが、ここではカプラン臨床精神医学テキストに記載されている3段階の心理的プロセスに沿って解説します。

まず愛する対象の死に面して、衝撃と否認の段階に入ることになります。これは数分から数週間ほど持続します。続いて、数週間から数ヶ月続く急性の苦悩の段階に移ります。そしてついに、数ヶ月から数年を経過して、解放の段階に至ることになるのです。

これらをペットロス症候群について当てはめると、衝撃と否認の段階では、感覚がなくなってしまったような感じとなって、ペットの死を本当はなかったことであると考えるような気持ちに支配されがちとなります。ペットの死を頭では理解していても、情緒的に受け入れられず、事実としてのペットの死を無意識に否認しようとする段階です。

ここで周囲の人が無理やりペットの死を事実として受け入れさせようとすると、誰も辛い気持ちを分かってくれないというように絶望的になったり、時にそういう周囲の人に攻撃的になるこのもあるでしょう

この段階では、サポートする人はアドバイスするのではなく、共感的に傾聴することが大切です。

「辛いのはわかるよ、本当に辛いでしょう。でも、死んだものは神様でもない限り生き返らせることはできないものね。気を取り直してちょっと出かけてみないか?」というのでさえ、ペットロス症候群の人には侵襲的となるかも知れません。細心の注意が必要です

さて、引き続き生じる急性の苦悩の段階では、症状のところで述べたような身体的症状や引きこもり・怒り・罪悪感が生じ、心的作業としてはペットの死を情緒的に処理している状態と言えるでしょう。情緒的処理は、余計な情報入力を少なくして脳の処理に任せる必要があります。サポートする人は、元気も活気もなく引きこもりがちになっているペットロス症候群の真っ只中にある人に、「好意ある無関心」という構えで接するのがいいのではないでしょうか。常に気にかけ、注意を払いながらも、無理やりには元気づけたり外に引っ張り出そうとはしないことです。求められればいつでも応じるというイメージでしょうか。

そしてついに、解放の段階に至ります。ペットの死に関する心的処理が完了していく段階です。活動性や興味関心が元のように回復してゆき、ペットのいない新たな生活に入ってゆくことができるようになります。この時期には、新たな伴侶となるペットとの生活を始めるようになるかも知れません。サポートする人は、愛護的に対応するという点に注意すれば、ほとんど普通の接し方をしてもいい時期でしょう。

ペットロス症候群にいかに向き合うか?対処法とその実際

前項でペットロス症候群の人に対する接し方について述べましたが、ここではペットロス症候群になっている人が、自分でできる対処法について提案します。

まず前提として、最低限の社会的役割から離れないことが大切です。

仕事や学校、主婦としての役割を完全に放棄することは得策ではありません。そうするにしろ、先に述べた衝撃と否認の段階にある時期のうちでも、最初の数日以内に止めるべきです。社会的役割からの離脱は、悲しみを繰り返し思い浮かべることで、ネガティブな感情の悪循環と悪化を生じさせる可能性があるからです。数日経っても社会的役割を果たせない時は、メンタル面の専門家の援助を必要としている状態にまで陥っている可能性があります。そのような時には、迷わずメンタルクリニックなどで相談するようにしてください。

いま述べた状態にまではなっていないとき、次に述べるような方法は助けになるかも知れません。

これは、先に述べたようなペットロス症候群の時に生じる回復プロセスを促進させるための一案です。まず、ペットの死を悔やみ思い出し、そして十分に悲しみを味わうことが必要です。この悲しみは、ペットの死を現実のものとして受け入れるために必須の必要悪とでも言えるものです。

そしてもし、罪悪感や自責感を感じる場合には、その内容を思い出し明確にして、実際に具体的に「書き出し」ましょう。してしまったことやしてあげなかったことなどです。そして、ペットが自分にしてくれたことを思い出し、一緒に楽しんだことを思い出しましょう。そのあとに、自分がペットにしてあげたことを思い出し「書き出し」ます。元気がなさそうな時に動物病院に連れていったとかブラッシングしてあげたなど、小さなことをたくさん思い出しましょう。このような作業がペットロス症候群の回復に役立つはずです。

そして、信頼できてじっと聞いてくれる人に、ペットを失った悲しみを聞いてもらうことも、ペットロス症候群からの回復を早めることに役立つでしょう。ただし、激しい罪悪感について語ることには微妙な問題があります。罪悪感を語られた相手は、普通は必ず「君のせいじゃないよ。それは責任を感じすぎだよ!」と罪悪感を和らげようとします。そうされて気持ちが落ち着くのであれば問題はありません。しかし、罪悪感が強い時には、慰めは「分かってもらえない」という感情を引き起こします。そして相手への不信感や時には敵意が芽生えることにもなってしまうのです。この不信感や敵意は、ペットロス症候群からの回復を著しく妨げます。ですから、罪悪感が強い時に、それを相談する時は、相手を選ばなければならないので注意してください。

おわりに

ペットの死は避けることができません。ペットの寿命は、長いものでも10年から20年。私たちの寿命からすれば、遥かに短いのです。ですから、ペットと生活しようとする人には、一緒に生活しはじめる当にその時から、ペットの最後を看取るという使命が科されるのです。そして、ペットの死の看取りは、看取る側の人に、重い課題を残していくことになります。ペットとの生活が、濃密なものであればあるほど、ペットへの思い入れが深ければ深いほど、ペットの死は、私たちの心に重い課題を残すのです。

さあ、思い出してください。日頃のストレスや、過去から引きずる未解決の心の傷を、ペットの存在が癒してくれたことはありませんでしたか?愛くるしいその顔を眺めたとき、その柔らかい毛並みの心地よさに触れたとき、不思議と気持ちが和やかになったことはありませんでしたか?落ち込んでいたとき、心配そうに眺めてくれたり、ほんの少しザラついたひと舐めを贈ってくれたことはありませんでしたか?

このようなペットとの心の触れ合いが大いなる癒し効果のあることは、アニマルセラピーというものが実際に行われていることからも明らかでしょう。ペットから癒された程度が大きいほど、ペットの死は辛いものとなります。しかし、この辛さを克服して、今度は私たちが、自分以外の者に、優しさをお返ししていくということが、別の世界に旅立ったペットへの感謝につながるのではないでしょうか?そしてそれは、伴侶であったペットが、この世で私たちと暮らした価値を締めくくるものにもなるのではないでしょうか?

今述べたことは、伴侶であったペットを亡くした人にとって、すぐには受け入れられない内容であるかも知れません。それでも最後の最後には、ペットの死後、自分以外の全てのもの、そして、何より自分自身を優しく見つめることができている自分に、気づくことになると思います。ペットというものは、死してさえまだ、尊いギフトを与えて続けてくれる存在なのでしょう。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長

病気になる前にドッグフードをチェック!!

スポンサードリンク

いいねするだけ!フェイスブックで最新記事をお届け

無料メルマガ配信中